大学のときに、ボストンの姉妹大学で9ヶ月間、勉強する機会を得ました。 その時の専門は、美術。 私は子供の頃から絵を描くのが好きで、本気で画家になりたいって思っていました。 今思えば無謀だったけど、当時はほかにやりたいことってなかった。 美大か芸大に行きたかったから、普通の大学のことはなにも知らなくって、絵ばっかり描いていました。 国語も英語も勉強しなくてもできたけど、大嫌いな数学はがんばって勉強しても全くできなかった。 数学だけ極端にできなくって、いつも担任の先生に嘆かれたけど、私には数学の意味がぜんぜんわからなかったです。 第一志望の芸大に落ちて、すべりどめの私立の女子大に通うことになったけど、やっぱり絵を描きたいと思っていた。 私の学科では絵の授業が取れなかったから、交換留学のプログラムを使えば、向こうで絵が描けると思って、試験を受けて留学させてもらいました。 美術の授業は、本当に楽しかった。 自分が自分でいてよかった。 本当にストレスのない環境で、好きなだけ自分の好きなことをできたのは、生まれて初めてで、幸せで幸せで毎日が楽しくてたまらなかった。 100枚の全紙のスケッチブックがあっというまになくなった。 あんなに純粋に自分が好きなことに没頭して過ごせるときは、二度とないと思う。 日本に帰るときに、向こうで描いた作品を持って帰ってきました。 もう戻れないのが悲しかったから、あまり見返すこともなかった。 向こうで描いたデッサンが入っている筒は、17年間一度もあけられなかった。 あまりにも大事で、心の中にしまってふれないようにしていました。 でもこの前、それをあけることになんの抵抗もなくなっている自分に気づきました。 あっさりあけてみた。 懐かしい紙の質感と木炭の色。 いま筒に収めたみたいに、さっきまで見ていたもののような気がする。 昔の自分なのに、タイムラグが不思議とない。 描いていたときのことが鮮明によみがえる。 先生に言われたこと、手が木炭だらけだったこと、寒かったこと、モデルの向こう側に見えていたクラスメートの顔。 この中に昔のわたしがいる。 画用紙のむこうから、こちらに語りかけてきます。 勢いがあって無鉄砲で、ただ若かった、そんな自分が描いた絵。 でも本気で描くことにぶつかっていた幼い自分がいます。 もう今の自分にはこの絵は描けない。 だけど、自分が成長していっているのがわかった気がしました。 せっかくなのでちょっと公開。 人体デッサン、私はどうしても頭がすごく小さくなってしまうのが癖でした。 こうやって小さい写真にしたら、アンバランスなのがよくわかりますね。 いろんなモデルの人を描きましたが、右側のティムはいちばんたくさん描かせてもらったモデルさん。 男性ですが骨格がすごくきゃしゃで、背が高くて描きやすかった。 画板を抱えてスケッチにもよく行きました。 左は大学の横の公園。 木がいっぱいあって、池があって、いちばん好きな場所でした。 右は大学の校舎。 美術の授業のスタジオ。 最上階にあって、眺めがよくって静かで好きでした。 キャンパス内のドミトリーに住んでいたので、お休みの日もスタジオに行って、ひとり絵を描いていたりしました。 カフェで買ったコーヒーとクッキーをおともに、静かに絵を描いているのが至福の時間でした。 大学の階段。 並木や階段みたいな、だんだん小さくなって一点に集約されるような構図が昔から好きです。 パースペクティブっていうのでしょうか。 写真もそういった構図でよく撮ります。 左は貝をいろんな方向から描いたもの。 右は鳥の骨格標本です。 どっちも授業で描いた。 靴をいろんな方向から描いたもの。 これはたしか宿題で、ドミトリーの部屋でブーツをコロコロさせながら床に座って描いたのを覚えてます。 そういえばこんなブーツはいてたなあ。懐かしい。 これはボストン美術館にある、岡倉天心を記念してつくられた日本庭園です。 "Heart of Heaven”っていう素敵な名前がついています。 美術館のなかもスケッチ自由なので、よく模写やデッサンに行きました。 ほとんど人にあげてしまったので、これは残っている貴重な一枚です。 どれも木炭デッサンで、紙のサイズは45×60cmくらいです。 この大きさのスケッチブックと画板を持ってスケッチに行ってたんだから、元気でしたね~。 美術館でデッサンしていると、みんな立ち止まって眺めていって、声をかけてきてくれたりして、楽しかった。 そばでずっと見ていた子に、描きあがったのをあげたら、ものすごく喜んでくれました。 ご両親からもすごくお礼を言っていただいた。 嬉しい思い出です。 今は絵、ぜんぜん描いていません。 だけど、自分がすることのベースに、絵を描くことが残っている気がします。 絵を描く時につかっていた考え方や物の見方、とらえ方は、今の自分にすごく影響しているような気がします。 そっとしておいた青春時代の懐かしい思い出。 あけられるようになったのは、自分がまた変わったということなのかもしれません。 よかった。
by songsforthejetset
| 2008-04-13 01:19
| 芸術いろいろ
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