松江のルイス・C・ティファニー庭園美術館へ、3月末の閉館前に行ってきました♪
松江駅からレトロなレイクラインバスに、約30分ゆられます。 この日は"曇りちょっぴり雨"みたいなお天気だったので、途中の宍道湖が霧雨にけぶって、まるで水墨画のようでした。 視界いっぱいに広がる湖と、水辺の風景に感動。。 自然のままの岸辺は大好きです。 以前松江に来た時も思ったけれど、霧雨と淡い日光が同居しているような日中のお天気は、まるでイギリスやベルギーみたいです。 ラフカディオ・ハーンが松江を愛したのも、ヨーロッパを思わせる気候で馴染みやすかったのかもしれません。。 カモがいっぱいいたけど、一羽一羽のパーソナル・スペースがすごく広くて、こんなに分散して浮いてるカモの大群ははじめて見ました。 平和なのかな? 湖は広大で神秘的で、ネッシーみたいなのがいそう。 いたらやっぱり、"シンジー"??(笑)。 美術館前に着いて、並大抵の規模じゃないことがわかってびっくり。 建物もヨーロッパの美術館建築みたいに本格的で、いかに力を入れて作られた美術館なのかが、外観だけでもひしひしと伝わってきます。 もっと早く来ればよかったなあ。。 入ってすぐにミュージアム・ショップがあって、閉店セールをやってました。 もう物がそんなになくって、ガラガラの店内でさみしかった。。 VENTILOっていうメーカーの"souffle clair"っていうルームスプレーがあって、パリのお店みたいな香りだったので、気に入ってさっそく買ってしまった。 そのほか置いてある物も本格的でした。 もっと早く来ればよかったなあ。。 展示室に入る前の廊下は、ヨーロッパの美術館みたいに壮麗です。 突き当たりは、美しい宍道湖の眺望が一面に開けている、ガラスの壁になっています。 この建築だけでほんと素晴らしいと思いました。 そして廊下のガラス越しに、色々な種類の椿を見られるようになってます。 見事に咲いてました。キレイ。 でも展示を早く見たいので、どうしても心ここにあらずになってしまった。 結局その後、私は展示室内で5時間も過ごすこととなりました。。 そしてそれでも全然足りなかった!! こんなにもすごい美術館だったなんて。 いろんな人から、「あそこはたいしたことない」って評判を聞いていたので、今まで来ようとも思ってなかったのです。 でも天満屋のアンティーク展の業者さんが大推薦だったので、来てみたのですが。。 そりゃあ推薦するともさ!!! なんじゃこの充実ぶりは!! 「たいしたことない」というのは、思い返せば、それほど美術に興味がない人の感想だったかも。 それをそのまま信じてた。。 失敗!! オペラに興味ない人がマリア・カラスの歌を聴いて、「たいしたことない」って言ってるのを鵜呑みにしてたようなものでした。 日本のアール・ヌーヴォーファンの聖地といってもいいくらいの内容と規模です。。 一体なんでこんな美術館が松江にできて、しかも閉館してしまうのか?! ってすごい不思議だった。 美術館の中は、閉館前ということもあって、人でいっぱい。 だけどほとんどが、「美術品が好きで観に来た」という人ではなく、「観光の一環で来た」人たちのようでした。 "かに食べ放題ツアー"の中に組み込まれてるとか。 ツアー客は滞在時間が決まってるからじっくり観れなくて、ざわざわと駆け足だし、展示室内のベンチはおばちゃん達が休憩に占領して大声でおしゃべりしてるし、子供たちは退屈で走り回ってる。 だから本当に「ここの美術館の展示物」を鑑賞したくて来ている人にとっては、すごく残念な美術館だと思いました。 これがニューヨークにあったら。 これがパリにあったら。 もしくは東京や神戸だったら。 オランジュリー美術館並に、きっと世界レベルの知名度を誇る美術館になっていたのではと思います。 ほんとにほんとに貴重でまず手に入らない超一流のものばっかりなのに、残念ながらそれが生かされる場所ではなかった、というのが閉館の根本的な原因ではないかと思いました。 それに、美術館側と松江側で何かトラブルがあったらしく、"美術館側から見た事情"を記載したリーフレットや貼り紙が目に付く場所に置かれていたのは、非常に悲しかったです。 美しいものを観にきたのに。 でも、でも、美術館自体は、あの空間を思いかえすだけで鳥肌が立つほど、奇跡のように素晴らしい美術館でした! 17から19世紀、東洋の美術がヨーロッパで大ブーム。 ↓ 19世紀末、その流れでジャポニズムの影響を受けたアール・ヌーヴォーが生まれ、一大ブーム。 ↓ 同時代にアール・ヌーヴォーの影響を受け、アメリカで数々の名作を生み出したのがルイス・C・ティファニー。 と、ティファニーの芸術作品に至る流れを、浮世絵や柿右衛門(マイセンの”なんちゃって柿右衛門”まである)から始めて、体系的に展示してあるのです! しかもアール・ヌーヴォー最盛期のパリのサロンをイメージした、ガレやマジョレルの家具で構成された部屋があったり、ティファニーに関しても、ステンドグラスだけでなく、モザイクやエナメル、陶磁器といった、彼の関わった全分野の作品に光を当てています。 ティファニー・スタジオの門外不出の内部資料を紹介する部屋もあります! どんだけマニアック?!(笑) なので私も感想が長くなってしまいましたが、ご興味ない方は適当に飛ばしてください(笑)。 では最初の部屋から。 "ガイダンス・ルーム" 「アール・ヌーヴォー」を紹介する部屋。 イントロなのに充分なボリュームで、すでにこの部屋だけで日本の美術館とは思えないほどの充実度です。しかも常設! これは展示室全体を通して言えることなのですが、照明が素晴らしかったです。 ほの暗い中に、宝石のように作品たちが浮かび上がっていました。 アール・ヌーヴォーには、さんさんとした陽光よりも、夜明けと夕暮れが似合う気がします。 谷崎潤一郎の「陰翳礼賛」の世界のように、影や闇があってはじめて際立つ生命の輝きが、そこにあるからだと思うのです。 ラリックのバッタの花瓶の照明は、その花瓶を、私が今までに観たラリックの中で一番美しく浮かび上がらせていました。 夢見るような乳白色のガラスに反射する透明な輝き、そしてその向こうに透けて見える漆黒の闇。 ラリックの作品の理想の姿を引き出していたんじゃないでしょうか。 ずーっとみていたかった。 私にとっての芸術性の高さは、”ずーっとみていたいもの”かどうかによるのです。 照明がほんとに見事でした。 懐中時計やジュエリーが展示されていた展示台が可愛かった! 美術館の方によれば、社長さんの発案だとか。 ちゃんとアール・ヌーヴォースタイルで、展示台も含めてひとつの作品のように見えました。 つたがからまった黄金の木の枝の先に、こうもりのデザインの懐中時計がぶらさがっていたのが、可愛くて一番好きでした。 この部屋で一番すごかったのが、「1900年パリ万博図録」! なななんと10巻コンプリートセットなのです!!! 以前1巻だけっていうのは見たことあるのですが、揃っているものをこうして展示で見られるなんて、予想もしてませんでした。 しかも松江で。 1900年のパリ万博は、別名「アール・ヌーヴォーの万博」と呼ばれるほど、最高の技術で製作されたアール・ヌーヴォーの作品が、会場を埋め尽くした万博だったのです。 ファンにしてみれば、ドラえもんがいたら拉致してタイムマシンを乗っ取ってでも行きたいくらいです。 図録は皮革・スウェード・金箔で装飾が施された、40×29.7cmの豪華本です。 1900年に100部が製作され、ここにあるのはNo.61でした。 本としての貴重さもさることながら、その背景がすごいんです。。 ってファンにはすごい本なんですが、そうでない人にとってはただの古びた本でしかありません。 「トランペットが欲しい黒人の少年」みたいになって見てる私はきっと変な人になっていた。 感動した!!! "パリス・サロン" 主にルイ・マジョレル、エミール・ガレの作った家具を配置して、パリのサロンを再現したピリオド・ルームが2部屋ありました。 もともと家具が見たかったので、ここが一番楽しみだったのです。 すごいと思ったのは、窓枠や柱、寄木細工の床、天井の漆喰装飾などといった、もともとの部屋自体がアール・ヌーヴォー調で作られていたこと! 作り付けの部分はブリュッセルのヴィクトル・オルタ邸を参考にしたのかな?って思いました。 すごく完成度が高かった。 この部屋を作った職人さんすごい! 家具は、実際の家の中みたいに配置されていて、近くで見られなくてすごく残念だった。 細工が美しいアール・ヌーヴォーの家具は、やっぱり近くで見たかった。 それに、生活感を出すためなのか、安っぽい造花やプラスチックの果物などがオブジェとして置かれていたのには、超一流の芸術品とのあまりのミスマッチにがっくり。。 ガレの家具は、繊細な寄木細工で描かれた絵がいちばん素晴らしいのに、テーブルの上には造花を盛った巨大な花器が置かれ、天板のモザイクが2割しか見られなかったり。 ガレが一番力を入れたと思われる、サイドボードの正面のモザイクの部分が他の家具の陰になってほとんど隠れていたり。 どれが誰の作品かというのは、展示室内とリーフレットに記載された配置図で確認するのですが、これがまったく実際の配置と違っていて、意味をなしていなかった。 展示室内にいる職員の方に、どれがどの家具なのか尋ねたら、派遣なので美術に関することは全然わからないとのことでした。 学芸員さんも美術館に1人しかいないって聞いてびっくり。この規模で?! その後、たまたま美術館側の方とお話できた際に、実際の配置と違うのでどれが誰の家具かわからないのですが、とお伝えしたところ、 「あれは美術館ができた時に作ったものですから、もちろん今のとは全然違いますよ!?」 それが何か!?文句ある?って感じで、こちらが反対に怒られたみたいでした。 ・・・美術館の人にこんなひどい対応されたの初めて。 フランスではもう海外に出ることは絶対にない、国宝級の家具もあるのにもかかわらず、ここではそれが「雰囲気づくりのための装置」としてしか扱われていなかった。 展示している家具がほんとうに素晴らしいものだっただけに、がっくりきました。 "ルイス・C・ティファニーの世界" ここまででも充分すごいのですが、さらにすごいのがここからでした。 ここに来るまで、私はティファニーってステンドグラスしか知らなくって、それもあまり繊細でないと思ってたので、それほど好きではなかった。 この美術館のコレクションを見て、そんな考えは吹っ飛びました。 ティファニーは多才な人で、絵画・ブロンズ・陶磁器・家具・モザイク・ウィンドウ・ランプ・銀製品・ファンシーグッズ・エナメル・アートジュエリー・花瓶といった、なんと12にもわたる芸術分野で製作を行ったのです。 それが14の部屋とチャペルに展示されていました。 どれもこれも美しくて、いつの間にかルイス・C・ティファニーが大好きになってました。 ほんとに美しいものが大好きな人だったんだろうなあって。 彼が関わったすべての分野が独自の美しさを持っていて、本当にすばらしいのです。 一番素晴らしかったのは、なんといってもウィンドウ"鹿の窓"でした。 当時の財界の令嬢のために製作された、4000枚のガラスを使った大作です。 それをなんとここでは自然光で鑑賞することができるのです!! だから時間やお天気によって、輝き方が変わってくるんですよって、係員の方が教えてくださいました。 森の向こうから覗く太陽は、時間帯によって夕日にも朝日にも見えるんだそうです。 ここで働いてる方は、そのすべての表情を見ることができるんですね。 なんてうらやましい。。 深い森の木々の枝にこぼれる光の美しさ、花水木におどる陽の光。 暗い森の中を照らす太陽と、輝く命の水、優美な鹿の姿。 深遠で崇高な美しさに、言葉が出ないくらい圧倒されました。 間違いなく、20世紀のマスターピースのうちのひとつです。 ティファニーの作品の、ガラス1枚を見ても、それがどれほど的確に自然を写しているかがよくわかります。 透明で深い水の流れ、光に透けるアイリスの花びら、とんぼの羽根の危ういほどの薄さ。 それを表現するため、多いところでは4枚も重ねて濃淡を作ったり、ドレープの寄ったガラスを開発して立体感を出したり。 繊細じゃないなんてとんでもない勘違いでした! イギリス庭園の中にはチャペルがあって、ティファニーのステンドグラスで飾られているのです。 美術館の展示室内は撮影できないけど、こちらは大丈夫でした。 これはその中のうちの2枚。 曇りだからちょっと光が弱いですね。 ティファニーは、お気に入りの作品は“A-coll(Aコレクション)”と呼んで、別荘のローレルトン・ホールにコレクションしていたそうです。 残念ながらそこは火事になって、たくさんのコレクションが失われたそうですが、運び出されたものもありました。 (火事なのによくそんな余裕が。。しかも簡単に取り外せなさそうなものばっかりなのに、どうやって運び出したんだろう?) やっぱり観ていて、素敵!!って思えるものには、”A-coll”の印がついてるもの、多かったです。 ローレルトン・ホール、今は写真で面影をしのぶほかありませんが、行ってみたかった。。 ティファニーが開発したファヴリル・グラスは無限の色調を持ち、また長年にわたって実験を繰り返して新しい素材や技術の開発を続けたため、ついにはティファニーに作れない色彩や質感はないと言われるようになったそうです。 ティファニーがすごいのは、ひとつの分野に留まらず、あらゆる可能性を試して、成功したこと! 東洋的で深い色合いを見せるラヴァ(溶岩)・ガラス、ラスター彩ガラスを使ったビザンツ様式のモザイク、花のつぼみから散る直前までを描いた吹きガラスの花瓶の連作などは、ティファニーがこういった作品を作っていたなんて、まるで知らないジャンルでした。 また、さまざまな技法を結集して製作したのが、ファンシー・グッズとアート・ジュエリーでした。 ファンシー・グッズは、ギフト・アイテムとして作られたいわゆる家庭用品のことですが、多様で何気ない家庭用品を、ティファニーはその技術と芸術性ですばらしい作品に仕上げています。 宝石付きカメオ・ガラスのインク壺、金のスカラベのついた木製のヒュミドール(葉巻入れ)、モザイクと金属でできた芥子のインクスタンドなど、すべて美しく、丁寧で行き届いたデザインのものばかりです。 欲しい。。 そして!理性が飛びそうになったのがアート・ジュエリーのコレクションです!! すごいすごいすごい!! こんなにいっぺんにアール・ヌーヴォーのジュエリーが展示されているのって、みたことありません! しかもクオリティ、保存状態ともに素晴らしいのです。 そして展示方法も照明も綺麗で、この部屋から出たくないくらいもうウットリです。。 現代にお店を構えている「ティファニー」.は、ティファニーのお父さん側の会社で、いわゆる宝飾品店なのです。 一方、ティファニーが製作したアート・ジュエリーは、宝石の価値よりもデザインや色彩、芸術性を重視し、エナメルやオパール、ガーネットなどの半貴石を使った、アール・ヌーヴォースタイルのドラマティックなものでした。 どれもこれもほんっっと美しくって、完璧です。 大粒の宝石たちも、美しいセッティングの土台を背景に、喜んで輝きを一層増しているようでした。 こんなデザイン、どうやったら考え出せるんでしょうね? ため息。。 そして最後のテーブルランプ・コレクションは、もう”レジェンド”と呼びたいくらいの素晴らしさでした!! もはや伝説となっている、有名なティファニーのマスター・ピースが、部屋の三方を埋め尽くす様子は圧巻です。 サラ・ベルナール、イサドラ・ダンカン、エディット・ピアフ、グレタ・ガルボといった、歴史を作った伝説の美女たちが勢揃いしているようで、まるで向こうからこちらが見られているような気がするほど、圧倒的なオーラがありました。 特に美しかったのはウィステリア(藤)のランプ。 光のレースのように垂れ下がるガラスのシェード。 藤の花の房のように繊細で、手を触れたら今にも、軽く揺れそうに見えるのです。 『ふたりのイーダ』っていう松谷みよ子さんの小説には、作者のおじいさんと座ってくれた少女から愛されて、心を持って動き出す椅子が登場します。 このランプたちも、作者と所有していた人たちとの愛情によって、心を持つようになったんじゃないかって思えるほど、人間のような存在感がありました。 閉館間際、誰もいなくなったこの部屋で、幸運にも1人っきりでランプたちと対峙することができたのですが、あまりにも美しすぎて、何か魂が吸い取られそうで怖くなったくらいでした。 ちょっと吸い取られたかも(笑)。 今思いかえしても、本当に展示内容の素晴らしい美術館でした! いつかどこかで、必ず再オープンしてくれることを祈りたいです。 でも、誰よりもルイス・C・ティファニーに、この美術館を見せてあげたかったです。 絶対感動したと思う。 彼がのこした素敵な言葉が、展示室の壁に掲げられていました。 “The search for the beauty, is in itself, the most wholesome of all quests.” (美の追求は、あらゆる探求の中でもっとも健全なことである。) Louis C. Tiffany 今回初めて、こんなにたくさんのティファニーの作品を鑑賞して感じたのは、彼の「美に対する誠実さ」でした。 美しさというのは、”目に見える善”のことなのだなあって、ティファニーさんが生涯に残した、すべての分野を鑑賞して思ったのでした。
by songsforthejetset
| 2007-04-26 02:17
| 芸術いろいろ
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